毎年、インフルエンザの時期になると患者さんから、「インフルワクチンはした方がいいのか?」とか「しても効かないんでしょう?」という質問が増えます。
まずは、「インフルエンザワクチンは効かないのか?」ということからお話しします。
厚生労働省のインフルエンザに関するサイトを見てみると、
「国内の研究によれば、65歳以上の高齢者福祉施設に入所している高齢者については34~55%の発病を阻止し、82%の死亡を阻止する効果があった」
と記載されています。
この記述だけを見ると、予防接種をしても34~55%の発病を阻止ですから、平均すると45%しか効かない(発病しない)ように思いますよね。
実は、この「有効率」の定義が、私たちの思う有効率と異なります。
ワクチンの有効率は、(1-接種者罹患率/非接種者罹患率)×100という計算で算出しています。
わかりやすく言うと、ワクチン接種をしておらずインフルエンザを発病した人が、もしワクチン接種をしていたら、どれくらい発病せずにすんだのか?(どれくらい発病を減少させたか?)という割合を言っています。
ですから、ワクチンを接種した人が、どれくらい発病せずにすむのかという割合ではないのです。
数字を使って説明すると、以下の通りとなります。
ある年にインフルエンザワクチンを接種しなかった人100人のうち、インフルエンザを発病した人は、40人いました。(発病率40%)
同じ年にインフルエンザワクチンを接種した人100人のうち、インフルエンザを発病した人は、22人いました。(発病率22%)
この場合、ワクチン接種をしておらずインフルエンザを発病した人が、もしワクチン接種をしていたら、発病した40人のうち、40人-22人=18人はインフルエンザを発病しなかったと考えることができます。
これを上記の計算式にあてはめると、ワクチンの有効率は、(40人-22人)/40人=45%となります。(ワクチン有効率)
前提条件でそういっているので当たり前ですが、この年にすべての人が予防接種をしていれば、100人のうち78人はインフルエンザを発病しなかったということになります。
この数値を見て、ワクチンが効くと思うか、思わないかですね。
少し古いですが、米国の2004年のデータに、以下のような報告もあります。
対象 | 結果指標 | 有効率(%) |
---|---|---|
健常者(65歳未満) | 発病 | 70~90 |
一般高齢者(65歳以上) | 肺炎・インフルエンザによる入院 | 30~70 |
老人施設入所者 (65歳以上) |
発病 | 30~40 |
肺炎・インフルエンザによる入院 | 50~60 | |
死亡 | 80 | |
小児(1歳~6歳) | 発熱 | 20~30 |
CDC MMRW 53(RR-6):1-40,2004 より
このデータでも65歳以上の健常人について、30~70%の有効率が報告されており、先ほどの厚生労働省のデータと同様な数値となっています。
また、65歳未満の健常人では、有効率は70~90%とより高い数値となっています。
次にワクチン接種をした方がいいのか?についてです。
多くの方は、「インフルエンザワクチンはあまり効かない」という情報をもとに予防接種をするべきか迷っていると思います。
まずは、有効率の定義についてきちんと理解し、その上で判断いただければと思います。
インフルエンザワクチンは、接種すれば100%インフルエンザにかからないというものではありませんが、インフルエンザの発病を予防することや、発病後の重症化、死亡を予防することに関しては、一定の効果があります。
このようなことから、特に高齢者や基礎疾患がある方については、接種をお薦めします。
インフルエンザはウイルス自体が引き起こす症状も恐ろしいのですが、2次感染といって、インフルエンザにかかって弱っている状態では、肺炎球菌などの細菌に感染しやすく、肺炎など重篤な病気に進展するということも、その恐ろしさの所以です。
特に高齢者や基礎疾患がある方の場合、重症化しやすく、65歳未満の健常人と比べて、死亡に至るケースも多くなります。
先ほどの厚生労働省のデータも米国のデータでも、65歳以上の施設に入所している高齢者の死亡を約80%阻止したとなっています。
高齢者に対して、インフルエンザワクチンに補助がでたり、最近CMでよく見かけますが、肺炎球菌ワクチンが定期化(無償化)されたりしているのもこういう科学的な知見があるためと考えられます。